そぞ録゙

批評家になりたいわけじゃない人の作文練習です。

5分間中毒

席に着く。
どのへんの席か、観やすいかしら。

少しツイッターをいじって誰も望んでいない実況をしていると
少しの空席を残して場内の隙間は埋まってくる。



ブザーの音。

場内の電光時計が消えた。
そろそろ携帯電話の電源を切っておこう。

プロジェクターに映し出される映像に、少し動きが見られ始める。


ぼんやりした照明が徐々に薄暗がりになっていく中で、ざわめきと静寂が混ざる。




時間の指標が見えなくなって「時間」の概念が存在しなくなる、不思議な時間。

これが30秒なのか、2分経ったのか、
はやる気持ちは時間の進みを遅くすることが可能なんですね。





幕が上がればステージの上には別の時間が流れ始める。

と同時に、こちらの世界では「終演までの時間」という見えない時間が刻刻と流れていく。





現実から切り離され、ひたすらに夢を待つ。
どこにも属さない麻薬のような時間は永遠のようであり、ただの5分間でしかない。






音が切れる度に小さなざわめきが起きていた場内BGMも、4度目の切れ目で音が無くなる。

息を呑む客席ごと飲み込むように暗闇が深くなる。

幕の向こうの音が大きくなる。


時間が動き出す。




長いジェットコースターみたいな、開演5分前が私は大好きなのです。


開演してしまえばあとは終わりに向かうだけの時間。

夢でも現実でもない、白も黒もない宙ぶらりんな開演までの5分間。



テレビドラマや映画館では味わえないこの麻薬のために私は通う。

京セラドームに。
博多座に。




5分間中毒、またの名を「吐きそうタイム」



ツチカワ