そぞ録゙

批評家になりたいわけじゃない人の作文練習です。

新春浅草歌舞伎

明けましておめでとうございます。

 

今年も観て参りました。

 

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新春浅草歌舞伎!

 

今年は眼力強めのゴリゴリポスターにて。

 

 

昨年の爽やか好青年風ジャンピングポスターの新春浅草歌舞伎が私の初古典歌舞伎でしたので、歌舞伎を観始めて約一年が経ちました!

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 (大学生の時に観た歌舞伎鑑賞教室の『芦屋道満大内鑑-葛の葉-』は自主的な観劇ではないのでカウントしません)

 

 

メンバーは変わり、当然演目も違います。殊に若手役者さん方は成長スピードが早いと聞きますので、一年前の舞台とはガラッと変わったお芝居だったことでしょう。

 

「ことでしょう」というのも、昨年の新春浅草歌舞伎、私ワンピース歌舞伎で中村隼人丈に一目惚れをして中村隼人丈を見に行っていたようなものなので、通して観ているはずの新春浅草歌舞伎なのにほとんど記憶がありません。

 

 

 

愚の骨頂

 

 

 

 

さて、愚の骨頂にあぐらをかいて君臨していた当時の私でございますが、この一年での成長をちょっと聞いてください。

 

 

 

推しが増えた

昨年、新春浅草歌舞伎マイ初日時点で私の目に映っているのはもちろん中村隼人丈。

しかしながらマイ千穐楽時には何やらツイートにチラホラ坂東巳之助の文字が。

義経千本桜』の「四の切」の亀井六郎の記憶すらないのに何が坂東巳之助だ、という感じもする。

 

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義経千本桜』川連法眼館の場(四の切)より亀井六郎イメージ画像です

 

その後も四月の明治座花形歌舞伎歌舞伎夜話、トドメの歌舞伎女子大学坂東新悟丈に落ち、六月の通し狂言義経千本桜』では澤瀉屋に落ち、八月納涼歌舞伎では中村屋に落ち、通し狂言仮名手本忠臣蔵では「やっぱり隼人さん素敵」となり…他にもいろいろ…

 

若手はもちろんのこと、花形若手の親世代幹部人間国宝…かと思えば初お目見えしたばかりの天使初舞台をしっかり勤め上げるあどけない男の子たちなんかも!

 

 この一年でたくさんの役者さんと出会えたと思います。

 

 

 

わかる演目が増えた

そんなこんなで最初こそ「好きな役者が出ている興行だけ…」なーんて言っていたわけですが、「好きな役者」が増えれば必然的に観る舞台も増えるもので、四月の明治座花形歌舞伎を皮切りに現在に至るまでノンストップで毎月歌舞伎を観ています。

 

ひと月に一度だけ通しで、ということもあれば同じ演目を何度もおかわりしたこともありました。

国立劇場歌舞伎座、なんてこともありましたし、ひどい時は巡業と地方公演が被ったりもしました。血も涙もない。

 

 

木ノ下歌舞伎や、歌舞伎女子大学など、歌舞伎の演目を題材に取った現代劇もいくつか観ました。

とりわけ、義経千本桜』渡海屋・大物浦『菅原伝授手習鑑』は劇的に気に入って、関連書籍を読んだり絵本まで買ったりしました。

 

菅原伝授手習鑑 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(3))

菅原伝授手習鑑 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(3))

 

 

 

だんだん、イヤホンガイドなしでもわかる演目が増えていくのが嬉しかったし、演目発表されたときには「わ〜これかかるんだ、楽しみ!」と脳内でイメージを結びつけることもできました。

 

好きな役者が「このお役をやりたい」と言ったときにそのイメージを共有することも、「〇〇さんの△△役見てみたいなぁ」なんて妄想することも少しずつできるようになってきて、ずっとずっと歌舞伎を観るのが楽しくなっています。

 

 

そんなわけで新春浅草歌舞伎2017

中村隼人丈を見るためだけに行っていたと言っても過言ではない昨年の新春浅草歌舞伎。

あれから一年、いくら私がパワーアップしたからとて役者さん方の努力や成長をとやかく評価できるほどの立場になった訳ではありません

 

些か勝手ではありますが、役者さんというよりも私の成長を踏まえて今年の新春浅草歌舞伎の感想をお話したいと思います!

 

 

 

やっぱり印象に残ったのは『傾城反魂香』

時の帝の勘気を受け、絵師・土佐将監は妻の北の方と山科の国に隠れ住んでいる。その里に虎が出没する騒ぎが起こり、弟子の修理之助は我が国に虎は住まぬのにといぶかる。そこへ裏の藪から巨大な虎が出現。驚き恐れる村人を尻目に、将監はこの虎こそ名人狩野四郎次郎元信筆の虎に魂が入ったものと見破る。修理之助はわが筆力でかき消さんと筆をふるい、見事に描き消す。弟子の実力を認めた将監は、修理之助に土佐光澄の名と免許皆伝の書とを与える。

これを聞いた兄弟子の浮世又平は妻のお徳ともども、師に免許皆伝を頼み込む。又平は人がよく絵の腕は抜群なのだが、生まれついての吃音の障害を持ち、欲がない。折角の腕を持ちながら大津絵を書いて生計を送る有様である。そんな弟子にいら立ちを覚えた師は覇気がないとみなして許可しない。妻のお徳が口の不自由な夫に代わって縷々申し立てても駄目であった。

折しも元信の弟子の雅楽之助が、師の急難を告げる。又平は、これこそ功をあげる機会と助太刀を願うが、これもあえなく断られ、修理之助が向かうことになる。

何をやっても認められない。これも自身の障害のためだと絶望した又平は死を決意する。夫婦涙にくれながら、せめてもこの世の名残に絵姿を描き残さんと、手水鉢を墓碑になぞらえ自画像を描く。「名は石魂にとどまれ」と最後の力を込めて描いた絵姿は、あまりの力の入れように、描き終わっても筆が手から離れないほどであった。水杯を汲もうとお徳が手水鉢に眼をやると、何と自画像が裏側にまで突き抜けているのであった。「かか。ぬ、抜けた!」と驚く又平。お前の執念が奇跡を起こしたのだと感心した将監は、又平の筆力を認め土佐光起の名を与え免許皆伝とし、元信の救出を命じた。

又平は、北の方より与えられた紋付と羽織袴脇差と礼服を身につけ、お徳の叩く鼓に乗って心から楽しげに祝いの舞を舞う。そして舞の文句を口上に言えば、きちんと話せることがわかる。将監から晴れて免許状の巻物と筆を授けられた又平夫婦は喜び勇んで助太刀に向かうのであった。

Wikipediaより引用

 

初見だったのであらすじを読んで、夫婦愛と少しのファンタジーな感じ、以前観たことのある『壷坂霊験記』みたいな感じなのかな…?と思っていました。

結果として、奇跡は起こるけれど、決して奇跡自体の話ではなく「又平が命をかけた作品を作り出した」ことを表現するための奇跡だったのかなあ、と観てみて感じました。

 

途中辛辣な場面はたくさんあるけれど、何が辛いって「誰も又平をイジメようとして突き放している訳ではない」ということ。

 

だからこそ、又平の渾身の作品を見た周りの人間の顔が清々しく晴れやかで、こちらも嬉し涙を流すことができたんだと思います。

本当に、とりわけ北の方の辛そうな顔と、着物を持ってくる優しい顔が頭から離れない…

 

壱太郎丈のおとくがまた、又平のことを大好きなんだろうなぁ…と見てとれるような女房っぷりで、これだけ惚れさせるものが又平にはあるんだろうと思いましたが、絵がすり抜ける奇跡を見ればもうわかりますよね。

将監もおとくも惚れたであろう又平の絵の才能がこれからもどんどん開いていってほしいと思うし、この夫婦がもう「今生最後の絵を」なんて悲しい絵を描かずに生きていけたらいいと思う。

 

 土佐将監は、決して「障害があるから」と又平をえこひいきもしなければ差別もしなかった。

きちんと絵を見て、絵の力で評価してくれた。

又平はいいお師匠様に師事したね…と思ってしまいました。

 

 

余談ですがさっきお話した『壷坂霊験記』はこれよりかなり「夫婦愛が起こす奇跡」に寄っていますが、ハッピーエンドだしわかりやすいし普通に号泣するしで私は大好きな作品なので、機会があれば観てみてほしいと思います。

http://www.tsubosaka1300.or.jp/report.html

 

 

 

続いては二部の『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』より 角力

 

こちらも初見です。

吾妻というめちゃめちゃ可愛い遊女の身請をめぐる二人の関取のお話です。

と言っても、関取が身請をするわけではなく、それぞれの関取を贔屓にしているボンボンの若旦那と、お役人さんたちのバトル。当時は贔屓は全力で関取をサポートし、関取も出来る限りのことを返していたそうです。

ここで出てくるお役人の贔屓は尾上松也丈演じる放駒長吉、若旦那が贔屓にしているのは中村錦之助丈演じる濡髪長五郎

「長」吉と「長」五郎で、タイトルの「ふたつちょうちょう」になるわけです。

 

このへんのことは全部イヤホンガイド先生が教えてくれました。初めて歌舞伎を観る方は試しに一度使われてみてほしいと思います。

 

そしてその濡髪を贔屓にしている若旦那こそ中村隼人丈演じる山崎屋与五郎なのです。

このお役はいわゆるつっころばしと呼ばれるお役で、突っついたら転んでしまいそうなナヨナヨした二枚目の立役です。これがまぁぁぁぁ合ってる!!

 

 フワフワしてて地に足がついてなくて吾妻大好き濡髪大好きな可愛い人。

品が良くて憎めない隼人丈のキャラクターも相まってすごく大好きなお役でした。

中村梅丸丈演じる吾妻ちゃんと与五郎くんのツーショットがあまりに美男美女だったり、推しの濡髪を褒められて身につけているものを片っ端からあげちゃうガチオタっぷりが話題になっていました。私の中で。

 

オタクに対しては推しを褒めておいて損することはありませんよ。

 

どうやら一般的にはこの放駒長吉と山崎屋与五郎は同じ役者が早替わりで勤めることもあるそうですね。

(二年前の平成中村座では、中村獅童丈が二役勤められています⇒http://www.kabuki-bito.jp/sp/play/titleCast/282

 

隼人丈は美しい二枚目ですが、体も大きくてしっかりしているので二役バージョンも見てみたいなあ…

 

 長吉と濡髪の大人の理屈はわかるんだけど…なやり取りがもどかしかったですね。

長吉にはこの先もその少し子どもっぽいようなスモーマンシップを忘れない関取になってほしいです。何言ってんだか。

 

 

 

打ち出しは賑やかで楽しい『棒しばり』

かねてよりずっと好きだ好きだと言いふらしていたこの演目をやっと生で観ることが叶いました!

 

大好きすぎるあまり何度もDVDで観たり、衛星放送で片岡愛之助丈と中村壱太郎丈のを観たりしていたのですが、やっぱり一番観ていたのは坂東三津五郎丈の太郎冠者と中村勘三郎丈の次郎冠者。

これがまた可愛いおじちゃんたちなんです…もうきっと大きめの図書館なんかには置いているはずだから観てみてほしい…

 

歌舞伎名作撰 棒しばり・年増・供奴 [DVD]

歌舞伎名作撰 棒しばり・年増・供奴 [DVD]

 

 

 

さて念願叶った巳之助丈の太郎冠者で棒しばり!次郎冠者は尾上松也丈。

 なんだか私が思っていた棒しばりよりベロベロに酔っている…!?

拭いきれないパリピ感に「おいもうそれ以上飲むな!」と思わずにはいられないような。

 

若いからどうの、未熟だから云々、とかではなく、27歳現在の巳之助丈と31歳現在の松也丈のコンビ。今この瞬間のこのコンビが浅草公会堂というロケーションだからできたこの時限りの棒しばりだと思います。

 

大名は年少の隼人丈。

「さては普段から太郎冠者と次郎冠者にイタズラされてるな?」なんて日常も見えそうな三人の棒しばりがとても楽しくて、より大好きな演目になりました。

 

コンビの踊りですから、お相手が変わればまた違いますし、前回の歌舞伎座とは空間も変わります。

(太郎冠者は2015年の納涼歌舞伎で踊った、ということを受けて)

と、筋書インタビューで巳之助丈も言っていますが、きっとこの先歳をとったりペアが変わったり、劇場が変われば同じ舞台は観られない。これがライブの醍醐味だと思うんです。

 

もうこの世にはいなくて観られない人がたくさんたくさん居る中で、ここから先、棒しばりに限らずともきっと何十年、巳之助丈はもちろん彼らの踊りやお芝居を観ていけると思うと幸せです。

 

なんてことを考えつつ、次郎冠者もたいがいだけど太郎冠者は少し飲む量とかアルコール度数を考えた方がいいと思いました。初めてお酒飲んだ高校生か。

 

 

 

あとこの一年で私が大きく成長したと思ったのは、吉野山などの清元の舞踊や、鈴ヶ森みたいな照明が薄暗くなる演目で寝ることが少なくなったことですね。

 

昨年の新春浅草歌舞伎において『土佐絵』の記憶が全くないという大失態は言わずもがなですが、どうも清元の美しいメロディーは眠くなるようで。

 

これは好きな役者が増えたお陰でガッツリ観られるようになったんじゃないかなあと思います。

 

一年前の自分にレポート2000枚分くらい坂東巳之助坂東新悟中村橋之助(当時国生)の魅力をしたためてプレゼンしたい気分。

役者から入るって意外と大きいかもしれないよね。どんなに難しくてもわからなくてもとりあえず好きな役者は見ていたいもんね。

 

 

 

 

というわけで

昨年も楽しかった新春浅草歌舞伎ですが、今年は何倍も楽しくなりました

 

詳しくなったら細かい面ばかり見えて面白くなくなるんじゃないか、と思っていたけれど、話の内容や時代背景、役者なんかを知っていれば俄然物語や舞踊を深く見ることができるし、深くまで見えればもっと大きく感動できるんだ、ってことがわかりました。

「楽しもう」という大前提のもとに勉強していなければ当然楽しめなくなってしまうと思うけれど、「楽しいエンターテインメント」「辛い時の現実逃避先」として歌舞伎と出会ったので、私は来年の新春浅草歌舞伎も今年より全力で楽しんで参りたいと思います。

 

来年は何がかかるのかな。

誰が出るかな。

すし屋 で新悟ちゃんの弥助が見たいな。

正月から重すぎるなあ。

 

こんな妄想ができることが楽しいです。

 

 

来年の私ももっと歌舞伎好きになっていますように!

 

 

 

ツチカワ